危険なツマアカスズメバチとは?その生態や駆除方法を徹底解説
ツマアカスズメバチは2012年に長野県対馬市で発見され、2015年に特定外来生物に指定されたスズメバチ科の昆虫です。幼虫のタンパク源として昆虫類を捕食するため、生態系への影響が懸念されるだけでなく、ミツバチを好んで捕食することから、海外では養蜂業への被害も報告されています。その攻撃性の高さから人への刺傷被害もあり、韓国では死亡者も出ています。
ツマアカスズメバチの駆除方法は、トラップによる女王蜂の捕殺と、巣の撤去です。個人で行うのは非常に危険なため、専門業者への駆除依頼が必要です。
今回は、ツマアカスズメバチの生態や危険性について詳しく解説するとともに、ツマアカスズメバチの駆除方法についてもご紹介いたします。
目次
特定外来生物・ツマアカスズメバチの生態
ツマアカスズメバチは、ハチ目スズメバチ上科スズメバチ科に属する昆虫です。日本では2015年1月以降、外来生物法に基づく「特定外来生物」に指定されています。[注1]
1836年インドネシアのジャワ島で発見されて以来、アジア全土や一部ヨーロッパ諸国で分布を広げ、現在14の亜種が確認されています。
形態は、働き蜂で体長20mm、雄蜂で24mm、女王蜂で25〜30mm程度です。分布地域によって大きさに差があり、東南アジアでは女王蜂の体長が20mmに満たない場合もあります。全体的に黒っぽく、腹部の先端が橙〜赤褐色という特徴的な色あいで、同種在来種との識別がしやすいとされています。
[注1]環境省 自然環境局:特定外来生物等一覧
https://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/list.html
ツマアカスズメバチの分布地域
ツマアカスズメバチの自然分布は、インドネシアのジャワ島を基産地に、パキスタン、アフガニスタン、インド、ブータン、ネパール、中国、台湾、ミャンマー、タイ、ラオス、ベトナム、マレーシアと広範囲です。
移入分布は2003年に韓国の釜山広域市、2012年には日本で初めて営巣が確認されました。特に韓国では生息数が在来種のスズメバチを上回り、多くの被害が報告されています。ヨーロッパでは2004年のフランス南西部への移入をきかっけに、その後スペインやイタリア、ポルトガル、ベルギーへと分布していきました。
韓国・ヨーロッパ共に、移入の主な原因は中国からの輸入貨物への混入だといわれています。
日本での初確認は2012年の長崎県対馬市
ツマアカスズメバチが日本で初めて確認されたのは、2012年10月長崎県対馬市です。生態系への影響や農林業(主に養蜂)、人への被害与えるとし、2015年の1月には特定外来生物に指定されました。同年、福岡県北九州市にてツマアカスズメバチの営巣が発見され、以降も宮崎県日南市にて個体と営巣、大分県大分市にて営巣を確認。2019年11月には、山口県防府市にて個体と営巣が発見され、これが本州でのツマアカスズメバチ初確認となりました。[注2][注3]
遺伝子解析調査によると、対馬市で発見されたツマアカスズメバチは韓国やヨーロッパで確認された個体と同じ亜種(ssp. nigrithorax du Buysson)だということが判明しました。
[注2]環境省 自然環境局 日本の外来種対策:ツマアカスズメバチに関する情報
http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/tsumaaka.html
[注3]環境省 報道発表資料:山口県防府市におけるツマアカスズメバチの確認について
https://www.env.go.jp/press/107482.html
樹木の高い位置に巣を構えて生活する
ツマアカスズメバチはほかのスズメバチ同様、単女王制コロニーを作り、女王蜂とその子供である雌の働き蜂で集団生活を営みます。
秋に交尾を終え、越冬した女王蜂(創設所女王蜂)は、3〜6月にかけて天敵に見つかりにくい草根、藪、樹洞、地中などに単独で巣作りを始め、産卵します。初夏を過ぎると働き蜂が羽化し、餌の採集や巣作り、巣の防衛など、主な営巣活動は全て働き蜂が担うこととなります。女王蜂は産卵のみに集中します。
働き蜂の増加とともに巣が成長してくると、より広い空間を求めて樹木の上部、地上から5〜30mの高さに巣の「引っ越し」をします。都市部に生息するツマアカスズメバチは、マンションなどの軒下に巣を構えることも少なくありません。開放的な空間へ移動した巣はどんどん拡大し、ときには高さ2mを超える巨大コロニーになる場合もあります。
秋になると雄蜂や新女王蜂が羽化し、巣外で交尾を行います。雄蜂は交尾後死亡し、新女王蜂は活動を停止して越冬に入り、春に新しい巣を作るのです。働き蜂は秋に個体数のピークを迎え、冬にかけて減少、新女王蜂以外の個体は越冬できず、年内にはすべて死亡します。
攻撃性は分布地域によって差がある
ツマアカスズメバチの攻撃性に関しては、分布地域によって差があります。原産地では非常に攻撃性が高いことで有名です。一方、移入分布であるフランスや日本においては、ほかのスズメバチ科と比較しても特別攻撃性は高くありません。巣の下を通過する程度では被害を受ける可能性はないでしょう。
しかし、ほかのスズメバチ科同様、1度敵だと認識した対象には、執拗に追跡し攻撃を繰り返す習性があります。意図的に巣に近づいたり、刺激したりする行為は絶対にやめましょう。
タンパク源としてミツバチなどの昆虫類を捕食
ツマアカスズメバチの主な食性は、タンパク質として昆虫類、炭水化物源としては主に開花植物の花蜜や樹液です。
昆虫類はハエ目やハチ目を中心に、クモやチョウ目、バッタ目などを捕獲し、巣内の幼虫に与えます。特にミツバチを好物とし、ミツバチの巣の前でホバリングしながら待ち伏せし、巣に帰ってきたミツバチを捕獲します。
また、同じミツバチでも、トウヨウミツバチよりもセイヨウミツバチを好んで捕食する傾向があります。その理由として、セイヨウミツバチはツマアカスズメバチに対抗する有効な手段を持たないため、捕食成功率が高いということが挙げられます。
成虫は訪花吸蜜や樹液吸汁、果汁摂取によって活動のエネルギー源を確保します。
ツマアカスズメバチに懸念される3つの危険性
ツマアカスズメバチを放置しておくことで懸念される被害としては、次の3つが挙げられます。
1. 生態系の乱れ
ツマアカスズメバチは繁殖力が非常に強く、女王蜂1匹につきおよそ5,000〜1万匹もの個体を産みます。フランスでは1つ巣に対して平均1万2,000匹もの個体が羽化していたこと確認されています。[注4]
そのうえ、スズメバチ科のなかでも特に広食性で、さまざまな昆虫類を捕食することから、在来種への甚大な捕食被害が懸念されます。
韓国・フランス・日本の対馬では、移入後繁殖したツマアカスズメバチによって在来種が激減し、ツマアカスズメバチが現在の最優先種となっています。
[注4]科学研究費助成事業:侵略的外来種ツマアカスズメバチの帰化状況と生産情報にもとづいた防除法の確率
https://kaken.nii.ac.jp/ja/file/KAKENHI-PROJECT-26440250/26440250seika.pdf
2. 農林業への被害
ツマアカスズメバチは花粉媒介者であるミツバチを好んで捕食するため、蜂による受粉を利用する農作物や養蜂業に大きな影響を与えます。海外ではすでに農林業に対する経済的被害が報告され、韓国ではおよそ2〜3週間でミツバチ300群のうち50群ものコロニーが壊滅したといわれています。
本州では、ツマアカスズメバチへの自衛手段を持たないセイヨウミツバチによる養蜂を行っています。もしツマアカスズメバチが生息数を増やし定着してしまうと、その被害は甚大なものになる可能性が高いでしょう。(現在ツマアカスズメバチが定着している長崎県対馬の養蜂は、トウヨウミツバチの亜種ニホンミツバチ)
成虫は果実から炭水化物源を補給するため、ヨーロッパや韓国では果樹への被害も報告されています。日本においては、ブドウやモモ、イチジクなど、実の柔らかい果実への被害が大きくなると予測されます。
3. 人への刺傷被害
ほかのスズメバチ科同様毒性を持つため、刺傷によるアナフィラキシーショックなど、人への健康被害も懸念されます。上述のとおり、ほかのスズメバチ科と比較して特別攻撃的というわけでありませんが
・都市部への適応力が高い
・1つの巣に対して個体数が多い
といったことから、本土に定着した際の被害リスクは高いと考えられています。
韓国の都市部では、マンションや壁や民家の軒下などに営巣したツマアカスズメバチによる刺傷で、死亡事故も発生しています。
ツマアカスズメバチの繁殖を防ぐ2つの駆除方法
ツマアカスズメバチの主な駆除方法は次の2つです。春先はトラップ、それ以降は新女王蜂が巣の外に飛び立つのを防ぐために巣ごと撤去します。
1. トラップによる女王蜂駆除
越冬した女王蜂は春から初夏にかけて巣を作り、夏から秋にかけて数千単位の働き蜂が羽化し、農林業や人に被害を与えます。したがって、春先に女王蜂をトラップによって捕獲・駆除することで、営巣活動を防除できます。トラップを仕掛ける時期は、女王蜂が営巣場所選びをはじめる3〜4月あたりが望ましいでしょう。
作り方は2リットルペットボトルに2cmほどの切り込みをH型に入れ、その中に水・乳酸菌飲料の原液・ドライイーストを混ぜたものを流し込めば完成です。
トラップは林縁や花の咲く場所、ツマアカスズメバチの捕食対象となる昆虫類が生息する場所に設置し、切り込みが目線の位置に来るよう調整します。交換目安は2週間です。トラップを回収する際は、ペットボトルに殺虫剤を噴射し、中のツマアカスズメバチがすべて動かなくなったことを確認します。
2. 巣を撤去して女王蜂ごと駆除する
6月を過ぎてもツマアカスズメバチの存在が確認される場合は、すでに巣が作られている可能性があります。6月あたりの巣は直径10cm程度小さく、草根や低い木の茂み、樹洞、地中などに造られるため、見つけることが困難です。10月頃になると巣は高い樹木の上の方に造られ、直径 50~100cmくらいの大きさになります。この頃には巣内で新しい女王蜂が羽化しており、生産は12月頃まで続きます。
10月以降に巣を発見した場合は、女王が巣外に飛んでいくのをできるだけ抑えるためにも、速やかな撤去が必要です。巣の駆除は防護服を着用し、薬剤を噴射したのち撤去・焼却処分します。
ツマアカスズメバチの駆除は専門業者に依頼する
上述のとおり、ツマアカスズメバチは樹上、地上から数メートル高い位置に営巣するため、駆除にはクレーン車を使用した大がかりな作業が必要です。撤去には危険が伴うため、巣を発見した際は巣に近づいたり刺激したりせず、専門業者に依頼しましょう。
ツマアカスズメバチは特定外来生物のため、業者への撤去依頼後はすみやかに各自治体へ連絡し、情報提供・共有を行います。
まとめ
日本で初めて確認されてからまだ日の浅いツマアカスズメバチですが、その高い繁殖力と分布拡大能力で、九州地方を中心に生息数を増やしています。2019年には本州への侵入が確認されたため、これまで以上の警戒が必要です。
ツマアカスズメバチは生態系のかく乱や農林業への被害、人への刺傷被害など、さまざまな悪影響を及ぼします。ツマアカスズメバチの巣や個体を発見したときは、速やかに専門業者及び各自治体へ連絡しましょう。